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2014年4月号

vol. 085

ピアノと杭打ち

~多くの人が豊かさを共有した高度成長の時代、そこには記憶に残る音があった~

戦後、昭和29年から19年間続いた空前の高度成長期。
私にはその時期、ある2つの音が耳にこびりついている。
ピアノの音と、建設現場の「コーン、コーン」という杭打ちの音である。

ある新聞社が「その時代を思い起こす音」を熟年層にアンケートしたら、
多くの人が、戦争の時代と、昭和の高度成長期を選んだ。
戦争の時代は、爆撃機音などトラウマとなった音は耳から離れないのだろう。
一方、高度成長期も同様、多くの人が、
共通して得た、時代の高揚感が、ある「音」となって記憶されている。

選ばれた音は、
「ゴーゴーダンスのエレキ音」、
「機械式計算機のハンドルを回すガリガリという音」、
「ボツッ」という、レコード針をレコードに落とした瞬間の音など、
なるほど、と膝を打つ。

ちなみに、アメリカの高度成長期(1920年代)に選ばれた音は、
タイプライターの「パシャッパシャッ」という音だったそうだ。
フォード景気に湧く豊かなアメリカで、
多くの人々がタイプライターに向かって、
大音響をあげている映画のシーンが目に浮かんでくる。

高度成長期だけに、とりたてて記憶に残る音が鳴り響いていた、
というワケではなかろうが、
恐らくその時代、
もれなく全国民が、同じ体験をしてきた時代なのだろう。
どんな社会現象にも「大衆」や「大量」という言葉がついた時代だ。
皆が同じ髪型をし、皆がダッコちゃん人形を買い、皆が同じTV番組を見た。
そんな時代だったのだ。

その高度成長期に少年期を過ごした私にも、懐かしい音がある。
それが「ピアノ」と「杭打ち」の音である。
「同じだよ」と頷く方もいるのではなかろうか。
そう。あの音である。

当時、大げさに言えば、どの家の窓の下に立っても、
家の中からは「バイエル」のピアノが聞こえてきた。
豊かになりつつあった日本人は皆、
子供にピアノを習わせようとしたのだ。
戦後の日本に、一大ピアノブームが到来したようだった。

当時の親たちは、自分が悲壮な戦争を経験している。
食べるものさえなかった、そんな時期に青春を過ごした親たちは、
せめて、自分の子供には、豊かな暮らしをさせようと躍起になった。
ピアノはそんな新興家庭の、真新しい家に、どんどんと運び込まれていった。
一億、総中流家庭の誕生だ。

もう一つ、耳に残る「音」がある。
戦後の日本には、どんどんと新しい建物が建てられ始めたのだが、
狭小の日本の土地には、高い容積率の、高層の建物が求められた。
それを可能にしたのが「杭打ち工法」である。

建物を安定させるべく、地中深くまで「長い基礎の支柱」を打つのである。
何本もの杭を、ハンマーで次々と打ち下ろして埋めていくのだ。

私が小学生の頃は、地面という地面はすべて造成され、
そこいらじゅうに杭打ち機が運び込まれ、
目を離しているうちに、あっと言う間に空き地は建設現場と化していった。

そして杭打ち機から「コーン、コーン」という音が鳴り響くのだが、
これは市民にとっては決して「騒音」なんかではなかったようだ。
新しい街ができる、というワクワク感があったからだろう。

小学校の窓から、遠くに見える杭打ち機。
ハンマーを打ち下ろす杭の先端から煙が出ているのが見える。
その煙から「コーン」という音がするまでに数秒のタイムラグがあった。
そんな絵を、学校の窓からズッと眺めていた。

現代、もうこの「杭打ち工法」は見ることはない。
騒音も甚だしいこの工法は、
音のしない、もっとスマートな工法に置き換わった。

日本はバブル景気がはじけ、長い長い低成長の時代に入っていった。
高度成長期には、あれほど耳にこびりついた音があったのに、
今、そんな音は、もうどこにも聞こえない。
なぜなんだろう。

時代を現す音が無くなったワケじゃない。
消音されてしまったのだ。
空調の効いた家は窓が閉じられ、
ヘッドホンで弾く電子ピアノは、もう音すら発しない。
「コーン、コーン」なんていう杭打ちの音は、苦情の対象でしかない。
気がつけば、音は消えていたのだ。

もうすべての人が、同じ体験をすること自体、なくなってきたようだ。
皆が、同様の記憶を残す音は、もうないのだ。

大量消費時代は終わり、少数多様化の時代に入った。
大量も大衆も影を潜め、大音響は消音され、自分だけが聞く音になった。
今、あなたの隣に座る人は、
ヘッドホンで、何を聴いているのだろうか。

今の時代、いったい何を作れば売れるのだろう。
「ピアノ」と「杭打ち」の音を、遠くの雷鳴を聞くように懐かしむのは、
もうここまでかもしれない。

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 社長 谷洋の独り言ブログ 日々是好日