クモ星人と猫のピート
今回は本を2冊ご紹介させていただきます。
ご紹介するのはロバート・A・ハインライン作の「宇宙の戦士」と「夏への扉」 です。
「宇宙の戦士」
あの「機動戦士ガンダム」のモチーフになったとして知られているSF小説ですね。
発表はアメリカで1959年、日本では1967年に翻訳版が出て、1977年に文庫化されました。
私はガンダムを見てからモチーフの小説があると知りすぐに購入したものです。
ワクワクしながらガンダムのつもりで読み進めると、
前半は軍隊での訓練ばっかりで戦闘シーンは無く
女性キャラもほとんど出てこないのでつまらなく思えました。
だってセイラさん、フラウ・ボゥやマチルダ中尉に該当する人物が全く出てこないんですよ。
当然恋バナなんかもありません。
でも大丈夫です。
後半になるとつらい訓練を乗り越え、
精神的にも肉体的にも成長した主人公と新兵器のパワードスーツを身に着けて、
敵役のクモ星人と戦闘を繰り広げていき、
最後に敵の女王グモを生け捕りする作戦に参加していくこととなっています。
実際、ガンダムのような派手な戦闘シーンの描写はありませんが、
少年が訓練と戦闘経験を経て大人になっていく成長物語としては感銘深いものがありました。
(最後まで色恋沙汰とは無縁ですけどね)
私は文庫版しか知らないのですが、この小説が文庫化された時に挿絵が入ったそうです。
初めて小説内に登場するパワードスーツという兵器がビジュアル化されたのですが、
それまで宇宙服といえば、金魚鉢をかぶった潜水服のイメージがほとんどでした。
それが、人が内部に入り込んで兵器として操作するデザインが出てきたことで、
後のSF小説だけではなくアニメ界・ゲーム界に大きなインパクトを与えたと思います。
これ以降にインスパイア (パクった) された作品があまたと発表され、
人が中に入って操縦する人型戦闘兵器は大から小まで数えたらきりがありませんよね。
この小説が元祖なんですよ。
著者のハインラインはSF界のビック3と呼ばれている大御所で、
元軍人らしく小説内の訓練描写は体験に基づいていると思われます。
この作品が発表された時代はアメリカがベトナム戦争に介入を始めた頃でもありまして、
軍隊に入って一人前の男になるという作風から右翼的と評価されていたようです。
私にしてみれば、作者がどんな意図でこの作品を書いたのかを考えるよりも、
ただ単純に面白ければどっちでもよいと思います。
(作者の意図を推し量れなんて国語の授業じゃあるまいし、、、)
これを原作とした映画やアニメ・ゲームも発表されています。
興味のある方は探されてみるのもいいかもしれません。
「夏への扉」
こちらは騙されて失望した主人公が冷凍睡眠によって30年後の未来で目覚めるのですが、
あるきっかけで中途半端なタイムマシーンを使って元の時代に戻って活躍するお話しです。
ピートは主人公が飼っている猫の名前で、小説のタイトルにある「夏への扉」は、
ピートが冬になるとどれか一つは夏へつながる扉があるはずと信じていて、
家中のすべての出入り口を開けて夏につながる扉がない事を見せているというエピソードがタイトルになっています。
主人公も冒頭で裏切られ・騙されて失望しているので、
どこかに癒してくれる夏への扉を探しているという描写が最初に描かれています。
ミュージシャンの山下達郎さんも読まれたらしく、「夏への扉」って曲がありますね。
この小説ですごいと思ったのが、1950年代に30年後の世界を描いているんですが、
CADやお掃除ロボット(ルンバ)が登場してきます。
未来予想はある程度的中しているんですね。
ただ、デジタル化している訳ではなく、CADなんかは製図台の上でキーボードから入力して線を描く機械式の代物でした。
昔のSF小説を読んでいつも思うんですが、
昨今の携帯電話の普及を予想している小説にはお目にかかったことが有りません。
色々な情報がデジタルで処理され、世界中を駆け巡る時代ですが、
ほんの一昔前の人でも今の現状は想像を絶するという事でしょうか。
おまけ
同じ作者の小説に「人形使い」という小説もあります。
ニヤッとした人はいますか?
そうです、「攻殻機動隊」に出てくるゴーストハッカーの名称ですね。
小説ではナメクジ形状の宇宙生命体として登場し、
人間と接触することで人格を完全にコントールしてしまう侵略者として描かれています。
あっという間にすべてを乗っ取るところから作者の士郎正宗さんもこのネーミングを用いたものと思います。