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2018年07月号

vol. 136

バーナム効果とトーテムポール

~私の永遠の探求テーマである「営業」。いつしかそれは、その効果より面白さが優先されて~

あなたは将来に不安を持っていませんか?
この質問に「いいえ」と答える人はごく稀だろう。多くの人がこの質問に「はい」と答える。
ならばその人を誘導していくのは難しくない。

「バーナム効果」という単語を聞いたことがあるだろうか。
私がこの単語に出会ったのは、もう20年以上も前のことだ。
書店でマーケティングに関する書籍を漁っていたとき、偶然に見つけた心理学用語である。
当時私は、マーケティングにすこぶる感心ががあったときで、この単語との邂逅は一種、衝撃でもあった。

「バーナム効果」を簡単に説明をしよう。
例えば「あなたは今、夫婦関係に悩んでいますね」と言われたときに「あ、言い当てられた」と思ってしまうだろう。
いわんや、夫婦関係に悩みを持たない人などいないはずだ。だが、あたかもズバリと心の中を読まれたと思い込んでしまう。
そして人は、その進言者を、自分の良き理解者だと思い込んでしまうのだ。
この心理効果を「バーナム効果」と言う。

そして、私がそこで食い付いたのは、この「バーナム効果」が、マーケティングに活用されていたことだった。

例えばこんなやり方だ。「あなたは今、自社のセキュリティに不安を持っていませんか」と言われて、
「いいえまったく」という経営トップはいないはずだ。
そして、それを糸口にし、「では、今のセキュリテイ対策が、どの程度かを知りたくありませんか」と、
相手が次々と、「その通りだ」と思う質問を何点か続けていき、
誘導的に、こちらが売り込みたいセキュリティ製品やサービスの購買意欲を高めていくやり方である。

私は当時、最も効果的で、最も効率的で、最も合理的な「営業プロセス」を寝ても覚めても考えていたこともあり、
この「バーナム効果」との出会いは、思いがけない天からの授かり物だった。
営業プロセスにおける「提案のタイミング」と「訴求レベル」を、ユーザー心理に沿った上で、
スムーズにゴールまで運んでいける体系的な手法を手にした瞬間だったのである。

我々はまず、この「バーナム効果」から、ユーザーの心理状態を、10のプロセスポイントに分け、
巡りあった顧客が、今どのレベルに当てはまるかをまず定めることにした。

レベル1は、顧客の、我々が売りたい商品についてまったくその意欲が確認さえできていないレベル。
レベルが5を超えれば、顧客がその商材を何らかの意味で欲しているレベルである。

そして我々は、レベル2.5、レベル5.0、レベル7.5の3つのポイントでの提案書を前もって作っておくこととした。
レベル2.5ほど、顧客の手を引っ張って誘導していく距離が長くなる。
レベル7.5は、顧客が持つより具体的なその商材の導入への阻害要因を取り除こうとする提案内容となる。
そしてレベル5は、その丁度中間となる提案書である。

この顧客の10段階評価による、今のポイントを知った上での「提案書」は、営業効果に著しい成果をもたらした。
顧客の訴求ポイント、つまり「今、何をどれだけ欲しいのか」を言い当てることは、顧客にとっても心地良かったはずだ。
成約率は上がり、何より、すべての営業マンが、どの段階でどんな提案をするべきかを、マニュアル化できたことだ。
つまり、どの営業マンが提案をしても、同質の提案ができるようになったのである。

だが欠点もあった。とにかく長いのだ。
レベル2.5からスタートすれば、成約まで優に3ヶ月はかかっただろう。
本来ならとっくにロスをしている案件なのにだ。
だが、我々にとっては、この「バーナム効果」は、砂漠に金鉱を見つけた大発見となったことを自負している。

当時の私は、事業成果に熱心なマネージャーと言うよりも、
どちらかと言うと、営業手法の「探求者」か「研究者」のような心持ちだったことを覚えている。
売上が増えることよりも、自分の編み出した営業手法が周りから認められることの方がよっぽど嬉しかった。
あきれた事業マネージャーである。
レベル2.5から営業をスタートし、ゴールまで辿りつこうなものなら、飛び上がり、ガッツポーズをして喜んだ。

また、多くのライバル会社が、どのレベルの顧客を探しているのかも分かってきた。
各社、おおよそレベル6ぐらいのユーザーを、躍起になって奪い合うことが見渡せた。
ならばと、我々はレベル6以前の顧客に声をかけることにした。
レベル度が低い顧客であっても、我々は、そこから獲物を逃すことなく誘導できる手法を持っていたからだ。
我々は、ある一時期、このバーナム方式で、ゴールドラッシュを手にすることとなる。

さて、さてである。そんなお祭り騒ぎの日々の中、ある人から、ある通販を営むちょっと変わった御仁を紹介された。
この出会いこそが、私のその後の運命を変える人となる。
その御仁、ホームページで「トーテムポール」を通信販売してると言う。
私は一瞬、「くだらん」と口を滑らせた。「そんな人に会ってるヒマはない」とまで言ったのを覚えている。
「トーテムポールなんか、誰が買うんじゃ!」と吐き捨てた。

彼の説明では、そのトーテムポールは、主にアメリカで製造され、ちゃんと祭礼の儀式なりの祈祷を受けたモノらしい。
トーテムポールは、日本で言えば「仏像」とまでは行かぬが、玄関に置く「門松」ぐらいの信仰物に当たるようだ。
日本では小学校などの校庭によく見られたが、さてさて、これを買う人などいるのだろうか?
その彼は、トーテムポールと合わせ、アフリカ原住民の装身具、首飾りの類の販売もをしていた。
これについては「ちゃんと呪詛済みです」と胸を張るのだ。
いや、そんなことはどうでもいいのだ。そんなモノが「売れるのか?」を聞きたいのだ。

「バーナム効果」を信仰している我々は、そんなトーテムポールなど、売れるはずがないと思っている。
多くに人に、まず何を聞けばいいのか!
「あなたは今、誰かを呪い殺したいですか?」とでも尋ねろと言うのだろうか。
そしてもし「はい」と応えたとしても、そこから顧客を誘導して、最後に、トーテムポールを誰が買うと言うのだろう。

だが、私を驚かせたのは、そのトーテムポールと首飾りが、潤沢に売れているということだった。
ホームページを訪ねるユーザーは、トーテムポールを是が非でも買いたいと、そのサイトを探して来るのだ。
つまり、サイトにさえたどりつけば、ほぼ売れるのだ。成約率は100%に近いだろう。
そして何よりも、私の衝撃は、このトーテムポール事業は、訴求ポイント9.9からのみ、成立をしていたことだった。
ナント、このトーテムポール事業は「バーナム効果」とは無縁の位置で成立していたのである。

さて、さてだ。この衝撃の日からおよそ20年。私は今、このトーテムポール方式の熱心な信者となっている。
レベル2からゴールまで顧客を運ぶ醍醐味より、
レベル9.9の顧客を100%の確率で1本釣りする醍醐味に魅せられたのである。
熱病のように「バーナム方式」に酔い、そして「トーテムポールの通販」で冷水を浴び、
そして今、レベル9.9の潜在顧客を「どう探すか」にハマっている。

レベル2の100社を、バーナム効果で誘導し、長い期間をかけて1割の10社の成約を得るのか、
レベル9.9の1社を、何らかの方法で見つけ出し、その10割の1社の成約を得るのか、この究極の対比なのである。
前者は多くの営業コストがかかるが成果も多大だ。
後者は少ない営業コストす済むのだが、成果は僅かだ。これではメシが食えてもギリギリだろう。

だがやめられないのだ。営業成果がどうのこうのではない。
レベル9.9の顧客をどうやって見つけ出すか、このことを考えることが楽しくて楽しく仕方がないのである。
私はもはや事業マネージャーではなかろう。清流に1本の釣り糸を垂れる世を捨てた太公望のようなものだ。
何とも、自分の作った疑似餌にかかる「鮎」の1尾が、とてつもなく愛おしいのである。

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 社長 谷洋の独り言ブログ 日々是好日