昔の彼女が営業にやって来た
~アナタの高校時代の元カノが、20年ぶりに現れて営業をかけてきたらどうします?~
もしアナタの元に、高校時代に付き合っていた彼女が、突然営業に現れたらどうするだろう。
私なら多分、一発で撃沈だ。
この「元カノ営業」、これを実際にやった会社があるのだ。すごい…。
最近、つとに思うところ、企業のマーケティング戦術の、その新しさと巧みさに舌を巻くときがある。
例えば、社長を狙った飛び込みの「営業電話」も、まるでその社長と旧知の仲であるかのように、
「ああ××です。今日、社長います?」なんてフレンドリーな口調で電話をかけてくる。
普段なら営業電話など絶対に取次がないベテラン社員でも、社長の知人だと思い込み、電話を取り次いでしまう
。
これらは、実に些細な営業テクニックなのだが、恐らくマニュアル化されているのだろう。
例は悪いが、「オレオレ詐欺」の話術なども、実に巧みな営業のお手本なのかもしれない。
私は、マーケティングでの「人の購買意欲をどうそそるか」を考えているときが一番楽しい時間なのだが、
それはきっと「仕事」と言うより、多分に「ゲーム感覚」なのかもしれない。
このブログを読む諸兄には「営業企画」や「マーケティング部」の方も多いだろうが、
もはや「いい商品は売れる」なんて時代ではない。尽きない永遠のテーマは「どうすれば商品が売れるか」だ。
さてそこで今回は、その永遠のテーマを、寝ても覚めても考えている「悪党」が考え出した、驚愕の営業戦術を紹介しよう。
昨今、どんどん巧妙化する営業手法の中でも、これはまるで「TVドラマ」にでも出てくるような手法だろう。
その営業戦術、な、な、ナント「昔の恋人を営業に差し向ける」という禁断の策だった。
私の知人に、自社ビル建設の「プロジェクトチームのリーダー」となった男がいた。
若くして、その会社の経営企画室長となった優秀な男で、彼はその自社ビル建設の一切を任されていた。
当然、ビル建設に携わる「業者選定」も、彼の重要な仕事の1つだ。
そして、ゼネコンお抱えの業者も含め、什器の会社、セキュリティーの会社、空調の会社、サニタリー設備の会社などなど、
夥しい先からの提案や見積を受けている最中、見慣れぬ携帯番号から電話がかかってきた。
「忙しいときにゴメンなさい」「覚えてますか?」「私です」「二村(仮名)です」
「え?誰?」「ニムラさん…?」
「木村くん(仮名)久しぶり。高校時代に同級だった旧姓、二村恵子です」
「え!二村か?」「あの二村なのか?」と。
ナント、高校時代に短い間だが、交際をしていた「元カノ」からの20年ぶりの電話だった。
淡く甘酸っぱい思い出が、映画の予告編のように脳裏に蘇ってくる。
高校時代だけの短い付き合いだったと記憶しているが、最後、どんな理由で別れたのかは思い出せない。
お互いに大学受験を控え、少しずつ疎遠になっていったような気がする。
互いに大学に進み、その後は、風のウワサで結婚したことを知っている程度だ。
そんな彼女から、突然のこの電話はいったい何なのだろう…。
新ビル建設の多忙の中だったが、「相談したいことがある」との彼女の言葉に、
何とかスキ間を作り、昔、恋焦がれた元カノと、食事に行くこととなったのだが、むろんこれは妻にはナイショである。
そして、そこで彼女から打ち明けられた話に、彼は思わずフォークとナイフを落としてしまう。
ナント彼女は、彼に営業をしに来たのだと言うのだ。
「私、今ね、×××××という会社にいるの」
「うん」
「貴方が担当してる新ビルのセキュリティシステムの候補になってる会社」
「そうだよね」
「会社から行けって言われたの」
「何で」
「貴方を口説けって(笑)」
「何を」
「ウチのセキュリティを採用してくれるよう頼めって」
「ウソだろ…」
「ウソのようなホントの話」
「なんでキミなの」
「昔の彼女だから」
「はぁ?」
「昔の彼女なら、木村くんを口説けるだろって」
「なんで二村が、オレの昔の彼女だったって知ってるの?」
「あちこち調べたらしい」
「何を?」
「木村くんの出身の中学、高校、大学やサークルで、その同級がいないかって」
「どこに?」
「ウチの会社の社員の中に」
「キミんとこ、グループで社員3万人もいるからな。そりゃ1人ぐらいいるよ」
「その中で、一番仲の良かった人を見つけたかったみたい」
「それがキミ?」
「そう。同級生どころか『元カノを探し当てたー!』って飛び上がって喜んでたわ」
「誰が?」
「ウチの役員」
「はぁ?」
「断っていいわよ」
「えっ?」
「だって、こんなのズルでしょ。私もイヤよ。元カノを利用するなんて」
「断ったらキミはどうなるの?」
「どうもならないわよ」
「ホントに?」
「だって私、人事部よ」
私は、この話を聞いて、まずは「ウソだろう」と思ったのだが、もしこれがホントなら、これほどスゴい営業はないはずだ。
業者選定のシーンで「贈賄」はあるが、「女の刺客」なんて聞いたこともない。
しかし、これは目論見通りの結果となった。
木村氏は、紆余曲折しながらも、最終的には、元カノ会社のセキュリティシステムを選んだと言う。
「賄賂」ではない。だから法的には何ら問題もない。むろん「美人局」でもない。
この彼女、言葉巧みな「女優」だったのだろうか。
「ウチの会社、頭おかしいわよ。普通こんなことする?信じられない」と笑ってる。
「ウチの会社、指名しなくてもいいわよ。こんな卑劣なやり方をして」と笑ってる。
どこまでが演技なのか、木村氏にも分からない。
この元カノの会社は、徹底的に、キーマン木村氏の「琴線」を探ったのだろう。
彼の趣味、彼の性格、彼の経歴、彼の家族、彼に何をしてあげればその購買意欲を掻き立てるだろう、と。
そして、そんなことを調べている内に、何という偶然か、彼の昔の恋人を、社内で見つけたのである。
ならばその偶然を活かさない手はないと、そこから筋書きを書いたのか、いや、それともこれは必然のシナリオだったのか。
ちなみに、この元カノの会社、業界でも屈指の一部上場の有名コンピュータ企業だ。
じゃあそんな会社が、ホントに「元カノ営業」なんてするの?と疑いたくもなるが、この話、ウソ偽りなしの実話だそうだ。
私は個人的には、こういった人間心理の深層に電流を流すエゲつない営業はキライではない。まさにマーケティングゲームだ。
そう言えば、戦争には「女スパイ」はつきものだが。
(便宜上、文中の会話などは、いくばくかの演出・脚色をしています)