空席の価格(4)-全国クルー網の誕生
~全国に広がったSOHO網。そして産声をあげたロケーションビジネスとは~
「はじめまして」「私も参加させて」と次々と名乗りをあげるSOHO。
それが全国にまで広がった時、新たなビジネスが産声を上げることになった。
「空席の価格」4回シリーズの今回は最終回である。
自分の働ける時間だけ働けばいい。
自分の一番安くなった瞬間の人件費を提供してくれればいい。
インターネットさえつながれば働く場所はどこだっていい。
これが、SOHO達の新しいワークスタイルだ。
次々と集うSOHOの数はついに3,000名を超えた。
インターネットの急速な普及と、
多くのメディアが、我々のビジネスを取り上げてくれたお陰だ。
放っておいても日本中からSOHO達が集まってきた。
我々は集まったSOHO達を「クルー(CREW)」と呼び始めた。
同じビジネスの船に乗り込んだ「運命共同体」という思いを込めた。
そしてある日、そのクルーを日本地図にプロットしてみたら、
何とも驚くべき「副産物」を発見することになった。
クルーが、全国すべての都道府県にまんべんなく配置されていたのだ。
これは何かある!
「その地に住んでいるからこそ」のロケーションメリットを
活用しない手はない。
そして確信を得た。
我々はついに、
「全国パソコンセットアップ事業」にたどり着いたのである。
全国クルー網の誕生だった。
今、量販店でパソコンを買うと、専門のスタッフが家にやって来て、
箱を開けて、パソコンを組み立てて、
ややこしいインターネットの接続まで、すべてをやってくれる。
今では、ごくごく普通で、当たり前のサービスだ。
我々は、このサービスの日本第一号となった。
これを、日本で初めてビジネス化したのが、我々なのだ。
「デリバリコストをゼロにする」が成功のカギとなった。
例えば、これまで、
群馬の高崎のユーザーから「家に来て欲しい」と言われれば、
専門スタッフは、東京から駆けつけた。
東京~高崎の新幹線代はサービス料金にオンされ、
パソコンがせいぜい10万円なのに、
パソコン組立て料が5万円なんてこともあったハズだ。
我々のクルー網は、
「高崎の仕事は高崎のスタッフが行く」を実現させたのだ。
釧路の仕事は釧路のクルーが行く。札幌からは行かない。
奈良の仕事は奈良のクルーが行く。大阪からは行かない。
これで、デリバリコストは限りなくゼロとなった。
安くなる瞬間の人件費も駆使した。
東京の多摩ニュータウンからオーダーが来た。
依頼者はサラリーマンだ。
家にいる日曜日に来て欲しいと言う。
だったら、そこに行くクルーも同じく「多摩に住むサラリーマン」だ。
日曜日はお休み。
家でゴロゴロしてるより、仕事で鍛えたパソコン技術で、
ちょっとしたセカンドビジネスである。
名古屋の主婦からオーダーが来た。
主婦の手が空くお昼間に来て欲しいと言う。
ここに行くクルーも、同じく「名古屋に住んでいる主婦」である。
そう。主婦の人件費は昼間が一番安いのだ。
誰をどこに、いつ訪問させるかをコントロールする。
この「マネージメント」こそが、
我々の「ビジネスの秘伝のタレ」なのである。
パソコンセットアップの価格は、全国一律、10,000円を切り、
この訪問サービスは、
爆発的に日本中に広まり始めた。
我々のお客様は量販店だけでなく、
ほぼすべてのパソコンメーカーと組むこととなった。
もう止まらない。
全国にパソコンを配ろうとする多くの企業からもオファーがやって来た。
大手コンビニエンスストアの、全国1万を超える店舗に、
IT機器を取り付けに行くのも、我々のクルー網である。
沖縄にも、北海道にも、佐渡ヶ島にも、潮岬にも行く。
「どこへでも行く」
これが我々の最強の武器なのだ。
ある日、私が事務所でオーダー表を眺めていたら、
たった今この時、100名を超えるクルーが稼動してる瞬間に出くわした。
すごい。
新しいビジネスが生まれたんだと実感した。
本当にうれしかった。
結局、我々のこのビジネスは数年後、
同じくSOHOを組織した、多くの後発ベンチャーに追い抜かれてしまう。
我々の作ったこのビジネスは、ある意味、誰にでもできてしまう。
我が世の春は意外に短かった。
商売は相変わらずヘタクソのようだ。
だが、小さな「2の事件」から始まり、
私は一つの「夢」を結実したことに、ある種の感慨を抱いている。
ゼロから始め、小さな息づかいを掻き集め、一つのエネルギーの塊に育て、
そして、社会に何かしらの「スタイル」を残せた喜びは、
数字だけでは言い表せないのかもしれない。
そして今、その血は脈々と引き継がれ、
現在、りんくる社のメイン商品である「e-コンシェルジュ」は、
相も変わらずの「全国対応」だ。
むろん、ユーザーを担当するのは、キラ星のクルー達なのである。
18年前に書き上げた「空席の価格」。
「この空いた席はいったいいくらなのか」
すべてはここから始まったのである。
<次号「空席の価格-おまけ」>に続く