空席の価格(2)-価値が変わる瞬間を狙え
~フライト寸前の飛行機の空席。果たしてその空席の価格はいくらなのだろう~
価値は刻々と変化する。そしてそれは「人件費」にもあてはまるのだ。
誰も気付いていなかったこの大発見に、私は思わず飛び上がった。
「空席の価格」全4回シリーズの2回目である。
人生を変えたと言っても言い過ぎではないだろう。
そんな衝撃の「気付き」をもたらしてくれた、2つ目の事件を紹介しよう。
この事件も、1つ目の事件と同様、妻が遭遇した。
就職活動をしていた妻は「手に職をつけたい」と思い立ち、
自宅近くにある「パソコン教室」に通うことにした。
そして、来週月曜から始まるカリキュラムを申し込んだところ、
「今日から来れませんか?授業料は半額でいいです」とお願いされた。
理由を聞いてみると、10名の生徒の席に、急に欠員が出たらしい。
ラッキーだ。
今日から受けることができて、まして授業料が半額とは。
妻はもちろんOKをした。
よくある話である。
そして、いつもなら、これで何事もなく終わった話だ。
だがこの話を聞いた時、なぜかフッと閃めくものがあった。
半額…?
妻は、来週月曜からの授業を受ければ、当然、満額の授業料を支払わされる。
だが、今日から行けば半額だ。
じゃあ、授業料が半分ならば、受ける授業も半分に削られるのか?
そんなことはあり得ない。
他の席に座る9人と、まったく同じ授業を受けることができるのだ。
だが、他の9人は満額を支払っている。
なんだこれは?
よくよく考えれば教室側の気持ちも分かる。
生徒が9人だろうが10人だろうが、かかるコストは同じなのだ。
講師に支払う報酬も、部屋の賃料も、電気代も空調代も同じ。
だったら、空席を残したまま授業をスタートさせては勿体無い。
半額でもいいから、誰かを座らせ、
少しでも授業料を稼いだ方が得なのだ。
なるほど、よくある話である。
その席は、開講直前だったからこそ「半額」になったのだ。
授業内容には、まったく遜色がないにも関わらず、だ。
価値が変わる瞬間がある。
それに気が付いた。
見渡せば、その瞬間は、他にまだまだ見つかった。
例えばデパ地下の食料品売り場。
夕刻5時前、筍のお惣菜が200円で売られている。
だが5時を過ぎた瞬間、
お店のお兄さんが「半額」のシールを貼って行ってる。
このシーンは誰もが見知っている。
何の不思議もない。
だがよくよく考えれば、こんな不条理があっていいのだろうか。
4時59分の筍のお惣菜が200円で、1分後の筍のお惣菜は100円なのだ。
5時ジャストに、筍は化学反応を起こし、急にマズくなるのだろうか?
ならない。
なのに半額だ。
売れ残って捨てるよりはマシ!と、値引きして売り切ってしまうのだ。
そう。これこそが価値が変わる瞬間なのである。
他には、
「もうすぐ9月と言うのに売れ残っている夏服」
「開演直前に余ってしまったコンサートチケット」
「フライト寸前の飛行機の空席」
などだ。
そして私は飛び上がった。
「これって人件費にも当てはまるのではないか…」と。
バブル当時、日本人の人件費は世界一高いと言われた。
企業はこぞって廉価な人件費を海外に求めた。
だが、日本人の人件費は、本当に世界一高いのだろうか?
私は、それを疑うところから考え始めた。
高い日本の人件費の代表格はサラリーマンだろう。
逆に安いと言われる人件費の代表格は主婦や学生である。
我々は、こういった固定概念の中で「働き手」を選んでいる。
しかしその概念が当てはまらないシーンがある。
例えば安いはずの主婦に、
「朝7時からアルバイトに来てくれ」と頼んでも断られるに違いない。
当たり前だ。
朝7時と言えば、ダンナや子供を職場や学校に送り出す時間帯ではないか。
主婦にとってはこの時間帯は、最も高い人件費なのだ。
主婦は安い。実は、この概念は正しいようで正しくない。
「主婦の10時~3時は安い」
この表現こそが正しい。
一方、サラリーマンは、9時~5時が最も高い時間帯だ。
サラリーマンは5時以降に安くなり、ボーッとしている土日はさらに安い。
つまりサラリーマンは、月~金の9時~5時に、
すでに稼ぎ終わっているのだ。
そう。人件費は、瞬間、瞬間で、その価値が変化していくのだ。
ではもし、
安くなる瞬間だけを使ってビジネスをしたらどうなるだろう。
世界をひっくり返せる気がした。
「空席の価格」は、
驚くべき廉価な人件費を産み出してくれると気付いた瞬間だった。
私は心の中でガッツポーズをしたいた。
気付いたのは私だけかもしれないのだ。
大油田を掘り当てた。
このアイデアは使える!
私はもう進むしかなくなった気がした。
<次号に続く>