マズローの6段階の欲求
~孤高の志をもろくも溶かす誘惑の落とし穴。現代社会に巣食う陶酔のワナとは~
正しくは「マズローの5段階の欲求」で、これはそのパロディーである。
有名な「マズローの5段階の欲求」にもう1段階を加えて6段階にしてみた。
それは、多くの起業家達の孤高の志を抜き取ってしまう魔物かもしれない。
「マズローの5段階の欲求」は、
大手企業で人事研修などを受けた方にはお馴染みの理論である。
有名過ぎるぐらいで、習った方は多いだろうが、
まずは正しき「マズローの5段階の欲求」を説明しよう。
これを作ったアブラハム・マズローは人間の欲求を5段階に分け、
人はそれぞれ下位の欲求が満たされると、
その上の欲求を志向するという欲求段階説を提唱した。
図1を見て頂こう。
一番下が「生理的欲求」で、順に「安全の欲求」「帰属の欲求」「自我の欲求」
「自己実現欲求」となっている。
分かりやすく説明しよう。
心健康で、働き盛りの若いビジネスマンが経営トップを目指し日々励んでいる。
もしその若いビジネスマンが命に関わる病気になったなら、
社長になりたい、なんて欲求よりもまず、
「死にたくない。仕事を辞めてでもまず病気を治そう」と思うだろう。
生命や健康の危機に瀕している中で、栄達を欲求する人はいないはずだ。
これが「生理的欲求」である。
人が生きていく上で欠かせない基本的な欲求である。
では健康なら社長を目指せるか?と言うとそうではない。
今、自分が置かれた境遇が「安全」でなければならない。
テロ国家の国民が抱える政情不安や、家族が暴力団に脅されている中で、
社長を目指そう、とはなかなか思えない。
人は「身の安全」を脅かされていては、次の高尚な欲求などには至らないのである。
これが「安全の欲求」である。
安全を確保できたなら次の欲求は、会社や家族や国家などのグループ帰属への欲求である。
社会からはじき出された人間は、まずその不安を取り除きたくなる。
フリーターやニートは社長になりたい、と思うよりもまず、
どこかの社会へ帰属したいという欲求からしか考えられないのである。
これが「帰属欲求」である。
そして普通の社会人になった今、ようやく次の欲求が生まれてくる。
他人からの認められたい、という欲求で、
仕事を充実したい、もっと技術レベルを上げたい、会社を大きくして行きたい、
といったハイレベルの欲求で、まさに健康的な欲求である。
これが「自我の欲求」である。
社長になりたい、という欲求はこの段階に当てはまるだろう。
頂点は「自己実現欲求」だ。
それまでの欲求とは違い、かなり達観した欲求である。
瑣末な欲求など犠牲してでも叶えたい夢や、ビジョンだ。
例えば、寝る間も惜しみ、私財を投げ打ってでも熱中してしまう研究開発などがそうだ。
ガンジーなど、孤高の為政者の「平和の追求」などもそれに当たる。
社長になりたい、という自我欲求ではなく、
社会のためにこんな事業を興したい、という起業家がここにいる。
ある種の無償性が含まれているのが特徴だ。
さて、このマズローの5段階の欲求に、もう1つ付け加えた。
図2を見て頂こう。
それが「自己実現欲求」の真下にくる「快楽の欲求」である。
マズローの5段階は、
下位の欲求が満たされると、その上の欲求を志向するという欲求段階説なので、
厳密に言えば、「快楽の欲求」を目指したり、
ここを通過した人だけが「自己実現欲求」にたどり着くというのはヘンだ。
が、敢えてここで1段階を付け加えた理由は、
「自己実現に向かおうという崇高な人間が、いとも簡単に、この快楽ゾーンへ
落ち込んでいく」というシーンをまざまざと見るに至り、
「なるほど、このゾーンを克服せねば頂上には行けないのか」と思うが余り、
これを付け加えたのである。
くどいようだが、これはパロディーである。
さて、快楽の欲求とは何なのか?
それは、崇高であるはずの頂点を目指す人間に、
まるで新種ウィルスのように、スルリと心の隙間に入ってくるようだ。
崇高でピュアな起業家の精神に、
フッと魔が差す瞬間があるのだろう。
事業家の崇高なエキスを巣食う快楽の四悪とは、
「酒とギャンブルと色(恋)と宗教」である。
「私なら大丈夫」と思っている諸兄は多いかもしれない。
が、実はそうではない。
私はこれまで多くの経営者を見てきたが、
「なぜこの人が…」と思う人が、
いとも簡単にこの陶酔のワナにはまるのである。
男は、酒とギャンブルと色で簡単に堕落する。
それも、名声を得た瞬間に落ちていく男達があまりにも多い。
高名な大学教授が痴漢を働き、一瞬にして全てを失うニュースをよく見かけるだろう。
これまで築いた事業の財を、バブルの不動産投資につぎ込み始めた経営者はあまたいる。
これをギャンブルとは気付いていないのか。
女は恋をしたら一発だ。
それまでの女戦士は「恋に溺れる子猫」にコロリと変わる。
女が会社の金を宗教につぎ込み始めたらそこまでだ。
頂点を見た瞬間、
彼等は神を見るのと同時に、見てはいけない悪魔をも見るのだろう。
その悪魔と目を合わさずに、
頂点まで駆け抜けるのは、どうやらそんなに簡単ではなさそうだ。
これを読むあなたの後ろにも、ほら…。
