疑うには金がいる-という法則
~りんくる号の大切な水瓶。だが水瓶を見張れば破綻は確実に訪れる~
1992年のソビエト連邦の崩壊はイデオロギーの転換などではない。
この国は人を疑い過ぎた。人を疑えば金がかかるのだ。
そう。ソビエト連邦の崩壊は経済破綻によって決定した。
戦後の冷戦構造の中、ソビエト連邦は東側諸国を見張り続けた。
裏切らないかどうかを。
徹底した情報抑制やプロパガンダ。
西側に水一滴を漏らさない壁を作り見張り続けた。
しかしその「見張り賃」は、
逆にどんどんソビエト連邦の国力を弱めて行ったのだ。
やってられん!
ゴルバチョフはそう思ったのだろう。
なるほど…。
「疑うには金がかかるのか…」と気付いた瞬間だった。
大きな企業で働く諸兄に、こんな経験はないだろうか。
通勤定期券の検査だ。
ホントに正しく定期券を買ってるか?と、
会社から定期券のコピーの提出を求めらたことはないだろうか。
社員1万人の会社では、
たかが3ヶ月のバスの定期代だが、1人3万円を誤魔化せば、年間で12億円が空費となる。
そのため会社は「定期を見せてみろ!」と疑うのだ。
だがこの「見張り賃」に、いったいどれだけ費用がかかるだろう。
まさのソビエト連邦である。
恐らく全社員が定期代を誤魔化すなんてことはない。
だが誤魔化す社員はゼロでもないだろう。
気の毒だが、
大企業には抑止力を組み入れた犯罪心理学政策が必要なのかもしれない。
しかしこれは、会社が社員を信じていない証拠だ。
どれだけ見張ってみても、
悪意の社員はその見張りをかいくぐり、もっと手の込んだ悪事を試みる。
逆に多くの善良な社員は、会社の懐疑心にモチベーションを下げ、
何のことはない、
12億円以上の損失をしているのだ。
「疑うには金がかかる」と知った私は決めた。
見張らない、と。
信じれば経済的な上に、精神的にも気持ちいい。
裏切られた時のショックは大きいが、
それらを「想定内」と割り切ろうと悟ったのである。
私はまず信じることにした。そして2回目も信じる。
そして3回目は罰する。
私はこれを規範とするところがある。
社員であろうが、役員であろうが、パートナーであろうが、そして自分だろうが。
誰かが公私混同や、私益を公益より重んずる行為に至った時、
私は泣いて馬謖を切るのである。
りんくる号は小さな舟だ。
10数名でオールを漕ぎ続けている。
舟に積める食料と水は限られている。
次の寄港地まで、水瓶の真水はみんなのモノだ。
少しずつ、少しずつしか飲めない大事な真水である。
だが、夜に皆が寝静まっている間、
私を含め誰一人、その水瓶を見張らない。
朝起きて、水が無くなっていれば、そこまでだ。
全員、枕を並べて死ねばいい。
私は「疑うには金がいる」ということに気付いた。
そしてもう一つ、ある大事な法則を見つけた。
これは驚くべき発見だった。
もし水瓶を見張れば、
この小さな舟は、永遠に新大陸にはたどり着けない、ということを。